プロジェクト_残丘 セッション#04: タッド・フォルスグレン「ポスト・インダストリアル・エデンズ──市民農園の風景にみる持続性と多様性」

講義 写真家/タッド・フォルスグレン ポスト・インダストリアル・エデンズ──市民農園の風景にみる持続性と多様性

プロジェクト_残丘(Zankyū)セッション #04:

タッド・フォルスグレン「ポスト・インダストリアル・エデンズ──市民農園の風景にみる持続性と多様性」

 

いま、安倍政権による主要農作物種子法(種子法)の廃止(2018年3月末)を受けて、遺伝子組み換え作物やその育成に使用される農薬の氾濫、さらには「食料主権」の存続そのものが危ぶまれています。
その一方、世界各地で有機農法、持続可能な農業への関心が高まりを見せ、自給自足のための小規模農園がひとつの社会現象となりつつあります。
20世紀の爆発的な人口増を支えた機械化農業の対局にある、個人や地域コミュニティの手による農園が、いまなぜ人々の関心を呼ぶのか。「市民農園」に着目して世界各地で調査と撮影を行う写真家、タッド・フォルスグレンをゲストに迎え、都市に混在する農園の様相──ヒトと自然の風景の境界線から浮かび上がる、時代の要求を探ります。

とき〉2018/6/10(日)17:00-19:00 
ところ〉新井卓写真事務所
横浜市営地下鉄阪東橋または京急黄金町から徒歩5〜8

言語〉英語 (質疑応答時の通訳はあり)
席料〉一般1,000円/学生無料/定員25名、要予約
予約はこちらから 


「Post Industrial Edens / ポスト・インダストリアル・エデンズ」(工業化時代後のエデンの園)
タッド・フォルスグレン(訳/ 新井卓)

2004年以来、私は都市部の市民農園を撮影してきた。地球規模で踏査することを目的としているため訪問地は広く、これまでのところ以下のシリーズがある:

アメリカ合衆国、地域共同体の農園
欧州、配給制市民菜園
日本、市民農園
モンゴル、ツェツェルレグ
キューバ、オルガノポニコス

(c) Todd Forsgen (c) Todd Forsgen (c) Todd Forsgen
(c) Todd Forsgren / Courtesy of Artist 

市民農園──これら一見するとつつましやかな空間に、私は、われわれの文化の魅惑的な外縁を見る。すなわち市民農園とは、こんにちの都市と狩猟採集時代の風景のあいだに存在する、形式的かつ概念的な空間であり、実際上、それら二つの風景を橋渡しする存在である、ということだ。ある市民農園、たとえば自給自足を目的とする農園は最大の効率性を旨とする一方、他の農園、すなわち都市部のレジャーとして利用される配給制市民菜園などは、純粋な美意識に基づいてデザインされている。しかし私は、これらの農園に一貫して、都市と地方、公共と私用、現代的であることと原始的であること、自然と人為、あるいはグローバルとローカルといった対立する概念を、もういちど捉え直すための手がかりがあると考えている。

私が撮影地に選んだのはごく小規模で、身近な園芸の場であり、それら人間の居住地の余白に点在する地面は、薄いフェンスで囲われ、周囲の風景や人々の視線から区切られているのが常である。そこでは土地の所有権はそれほど重視されておらず、私たちが一般にもつ「公共の場所」と「私有地」の考え方は、しばしば曖昧である。私は、世界中に存在する小さな区画、市民農園でさまざまな好対照を捉えつつ、それらを一つのまとまりとして一望することを目論んでいる。こうして集められた写真から、いってみれば農園の柵や写真のフレームの境界を超えた関連性を見いだし、自然と文明が相互に排除するのではなく、持続的に共存する世界を描き出したいからだ。

一万年前、新石器時代の安定的な造園術と農法の確立により、最初期の都市郡が成立した。以来、自給のための農業はほとんどすべての文化で営まれ、熱帯から極地に至るきわめて多様な気候で追求されてきた。文化と気候の違いによって農法や農産物は多岐にわたり、農地としての空間は、それぞれの風景と耕作を行った人々から切りはなすことはできない。ひとつの農園とは、人間と土地の固有の関係性によって生み出されたものにほかならない。

市民農園に対する関心は、21世紀初頭になって急速に高まりを見せている。市民農園に参加する人々は、この状況に対して実用上、あるいは経済上の利点、さらには政治的、哲学的な動機まで様々な理由を挙げる。グローバリゼーションや、漠然とした種々の地球規模の問題に対する関心は、風景との親密で確かな手応えのある関わりを求める人々の増加と確かにリンクしているように見える。地産地消、有機栽培の食品に対する新たな関心の高まりは、先進国ではめざましいものがある。また一方で、発展途上国における食品価格の高騰と食糧不足は、市民の自給自足活動を促進している。止まらない人口増加と気候変動の時代にあって、市民農園の重要性はますます否定しがたく、その需要は差し迫って増大しているのである。

Todd FORSGREN(タッド・フォルスグレン)
www.toddforsgren.com

タッド・フォルスグレンは1981年、アメリカ合衆国オハイオ生まれ。ボウディン大学で生物学と視覚芸術を専攻、ヤン・エヴァンゲリスト・プルキン大学にて写真修士号取得後、ボストン美術学院に学ぶ。
フォルスグレンは、彼にとって写真とは、環境学や環境保護論、風景論を探索するための手段であり、美術史と自然史の中間領域でバランスを探りつつ、ドキュメンタリー・スタイルの写真から実験的な手法まで幅広いアプローチを惜しまない、と述べている。
ナショナル・ジオグラフィック、ガーディアン紙、ネイチャー誌、タイム誌ほか多くのメディアで作品を発表、クリーヴランド美術館を初め多数の写真フェスティバル、ギャラリーにて展示を行う。ジョージ・ワシントン大学、マリーランド美術カレッジほか美術学校にて講師歴多数。

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プロジェクト残丘
<プロジェクト _ 残丘>
新井卓写真事務所では「プロジェクト _ 残丘(ざんきゅう)」と題して、完全自主企画のレクチャー、展示、上映会、対談などをランダムに開催し、日本社会におけるマイノリティやタブーとされてきた思想・文化について多様な視点から知り、考える場を提供しています。毎回登場するゲストは、芸術家や作家をはじめ、批評家、研究者、編集者、活動家など多岐にわたります。ますます深刻化する社会の不寛容や無関心に対して、わたしたちはどう闘えばよいのか?ひとりずつ考える小さな手がかりを探します。

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