パンデミックの影響で、4月以降の展覧会や講演がすべて延期かキャンセルになってしまった。「自粛」のため親しい友だちにも会えない暮らしはさみしいが(それにしてもなぜ「自粛」なのか?自粛はふつう、なにか罪滅ぼしのための行為ではないのか)、自分が隠者のような生活に少しづつ順化していることを感じる。
いま、唯一残った横浜トリエンナーレのための作品を作っている。戦時中の千人針を主題にしたダゲレオタイプ・シリーズ、そして映像の二つの柱で、他者の苦しみの記憶への、それぞれモニュメンタルなアプローチ、非モニュメンタルなアプローチが拮抗する展示空間になるだろう。
ダゲレオタイプは神保町の戦争ものの古物を扱う店で仕入れた千人針を、一針ずつ、1000枚の小さな銀板に直接撮影している。なぜわざわざそんな苦労を、と自問しながらも、玉結びを四倍のマクロレンズで覗き込むとファインダー越しの視界に圧倒される。きつく結ばれた握りこぶしのような結び目、いまにも抜けてしまいそうな頼りないもの、何重にも絡まって奇天烈なこぶのようなもの──千人の女たち(もっとも寅年生まれの人は年齢の数だけ縫えたそうなので、実際の人数はわからない)生々しい息づかいと個別性に、膨大で単調な作業であっても飽きることはない。
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